NDMA アナライザ

N-ニトロソアミン測定専用測定システム

N-ニトロソアミンは、発がん性物質としてよく知られている物質群であり、加工食品、合成ゴム、化粧品、タバコの煙等に含まれることが問題となってきた。近年、浄水処理に用いられる塩素消毒の消毒副生成物として、N-ニトロソアミン類のひとつであるN-Nitrosodimethylamine(NDMA)が生成することが明らかになり、大きな問題となっている。WHOの飲料水ガイドライン値では100 ng/L[1]、日本の水道水質の要検討項目としても100 ng/Lが目標値として定められている[2]。

特に、渇水地域における有効な持続可能な水資源利用法として積極的に導入が進められている下水処理水の飲用再利用において、このNDMAが大きな問題となっている。下水処理水の飲用再利用では、下水処理水を高度下水処理プラントにより処理し、上水原水として利用できるレベルの水質にする必要がある。そのため例えば飲用再利用の先進地である米国カリフォルニア州では、NDMAのNotification levelを10 ng/L以下としている[3]。しかし、消毒のため塩素消毒が行われる下水処理水では、高濃度のNDMAが生成、存在しており、さらにNDMAの無電荷・低分子という性質から、高度下水処理プラントの化学物質除去のコア技術である逆浸透膜処理を容易に通過してしまう。結果、通過してしまったNDMAを監視し、さらに分解するために促進酸化処理システム(紫外線照射+過酸化水素)が組み込まれるなどの対策が取られている状況にある。

現在、ng/LレベルのNDMAの測定は、1000倍もの濃縮操作を組み合わせたGC-MS法やLC-MS/MS法が採用されており、測定に250~1000 mLの試料水が必要で、時間的にもコスト的にもその測定は容易ではない[4]。つまり、NDMA問題の解決に向けた研究・対策を促進していく上でも、飲料水の安全・安心を守るため高頻度で水質を監視するにも分析法がボトルネックとなっているのが現状であり、より簡易で迅速な分析法の確立が望まれていた。

弊社では、鹿児島大学理工学研究科の児玉谷助教の研究成果である高速液体クロマトグラフィーオンライン紫外線照射-ルミノール化学発光検出法によるニトロソアミン類の高感度検出法(HPLC-PR-CL法)に[5]、弊社開発技術である陰イオン除去装置(AEM)を組み合わせた技術により、わずか200 uLの試料水をHPLC装置に直接注入するだけでsub-ng/LのNDMAおよびN-ニトロソアミン類を測定できる専用測定システムを開発した[6]。その測定原理を図1に示す。

 

HPLCにより分離されたNDMAなどのニトロソアミン類は、紫外線照射により酸化力を持つペルオキシナイトライト(ONOO-)に変換される。このONOO-と化学発光試薬であるルミノール溶液が混合され、生じた光がNDMAとして測定される。この検出原理において、弊社開発のAEMは、カラム通過後のリン酸溶離液(pH 6.8)を、ONOO-の光化学変換に適した塩基性条件に変換(リン酸イオンを水酸化物イオンに変換)し、さらにサンプルに含まれNDMA検出を妨害する硝酸イオンなどの陰イオンを取り除く働きをする。つまり、化学発光検出法の高い選択性に AEMで生成されるピュアな塩基性条件、サンプル由来のイオン性物質が取り除かれることで、sub-ng/Lレベルという非常に高い感度を発現できる測定装置となっている。また特に化学発光検出法は、溶液pHや溶液温度などの反応条件に感度が依存してしまい安定性に難があることが知られているが、AEMによる一定のpH溶液生成、弊社開発のフィードバックシステムを持った光化学反応器による紫外線照射、これらをコンパクトにまとめることにより、カラム恒温槽内にすべての反応系を組み込むことが可能となり、数日間にわたる連続測定においても非常に安定的な測定が可能なものとなっている。装置写真を図2に、既存法との性能比較を表1に示す。

図2 N-ニトロソアミン測定専用システム

 

この装置は現在、世界最大の高度下水処理プラントを有するOrange County Water District (OCWD, CA, USA)のMegan Plumlee 博士、長崎大学工学研究科の藤岡貴浩准教授、先述の児玉谷仁助教らの共同プロジェクトである「Utility Validation of Alternative method for NDMA analysis Requiring Less Time, Cost, and Sample Volume」(Water Environment and Reuse Foundation)により現在、OCWDにおいて運用され評価研究が進められており、その有用性の高さが認められ、今年(2018年)5月にはAmerican Academy of Environmental Engineers & Scientistsの2018 Excellence in Environmental Engineering and Science™ Awards Competition Winnerを受賞している[7]。

 

<参考文献>
[1] WHO (http://www.who.int/water_sanitation_health/dwq/chemicals/ndmasummary_2ndadd.pdf)
[2] 厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/kijunchi.html
[3] CA.Gov. WaterBoards(https://www.waterboards.ca.gov/drinking_water/certlic/drinkingwater/NDMA.html
[4] US EPA, METHOD521 (https://cfpub.epa.gov/si/si_public_record_report.cfm?dirEntryId=103912)
[5] H. Kodamatani et.al., “Highly sensitive method for determination of N-nitrosamines using high-performance liquid chromatography with online UV irradiation and luminol chemiluminescence detection”, Journal of Chromatography A 1216, 92-98, 2009.
[6] H. Kodamatani, S. Roback, M. Plumlee, H. Masunaga, N. Maruyama, T. Fujioka, “An inline ion-exchange system in a chemiluminescence-based analyzer for direct analysis of N-nitrosamines in treated wastewater”, Journal of Chromatography A 1553, 51-56, 2018
https://doi.org/10.1016/j.chroma.2018.04.030
[7] American Academy of Environmental Engineers & Scientists (http://www.aaees.org/e3scompetition/2018honor-research.php)

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